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ところが、それから一月ほどして、その人がやってきたとき、その人はとても陽気だったので「隣の人はどう?」ってきくと、もう何ともなくなったって言うのよ。


あたしは、そのとき何だか怖ろしかった。「もう何でもないよ」っていう本人の顔がまるで人間みたいじゃない。そう、まるでべつの人になってしまっているんです。人は、何かに変わってしまうとき、まったく何の動機もなく、自分にも気がつかないうちに変わってしまうものなのよ。


寺山修司「血は立ったまま眠っている」)